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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)1435号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士杉原喜与人、同我妻武雄の上告理由について。

論旨中原判決の憲法一二条、二九条、九七条違反をいう点は被上告人等に対する損害賠償請求を排斥した原判決が民法の解釈適用を誤つた違法を主張するものに外ならず実質上違憲の主張には当らない。

よつて上告人が原判示のとおり本件土地に播種し生育させた甜瓜苗を被上告人等が上告人の意思に反して削り取つたことによつて上告人の甜瓜苗所有権に損害を与えたというべきか否かについて考える。原判決の認定した事実の要旨は、被上告人田村は元来本件土地の所有者であるところ、かねて上告人との間に本件土地を上告人が他から買受ける約束になつていた他の山林(本件土地と同大字所在)と交換する契約を締結し、この契約の履行として本件土地を上告人に引き渡し、爾来上告人はこれを使用収益して来たのであるが、その後昭和二四年二月五日被上告人田村は上告人との合意により右交換契約を解除し、ただし、当時上告人において本件土地に小麦を植え付けていたのでその収穫後本件土地の返還を受けることを約定した。その後同年六月頃上告人は右小麦の収穫を終つたので被上告人若山は被上告人田村の依頼により同月下旬頃本件土地を鋤きに出かけたところ、本件土地に上告人が同年五月中播きつけた甜瓜が二葉、三葉程度に生育しており、上告人において本件土地を鋤くことに異議を述べ土地の返還を拒んだにも拘わらずそのまま鋤き返えし、被上告人両名においてそれぞれここに甘藷を植えつけ爾来被上告人両名が右土地を分けて(被上告人田村においてその南寄りの部分、同若山においてその北寄りの部分を)使用収益しているものである、というにある。右認定によれば右交換契約解除後は上告人は当時そこに植え付けていた小麦を収穫するための外は、被上告人田村所有の本件土地を使用収益する権原を有しなかつたものというほかない。ところで、上告人が本件土地に同年五月中播種しよつて同年六月下旬には二葉、三葉程度に生育していた甜瓜苗が上告人の所有であるがためには播種が上告人の権原に基くものでなければならない。しかるに、右のように、上告人は播種当時から右小麦収穫のための外は本件土地を使用収益する権原を有しなかつたのであるから、上告人は本件土地に生育した甜瓜苗について民法二四二条但書により所有権を保留すべきかぎりでなく、同条本文により右の苗は附合によつて本件土地所有者たる被上告人田村の所有に帰したものと認めるべきものである(大審院大正一〇年六月一日判決大判民録二七輯一〇巻三二頁、昭和六年一〇月三〇日判決、大判民集一〇巻九八二頁参照)。従つて右の苗が上告人の所有であることを前提とする論旨は所論原判示の当否を判断するまでもなく理由がない。

次に論旨は、原判決は上告人が本件土地を返還すべき義務を負いながらもなお自らこれを占有中、右小麦収穫後昭和二四年六月下旬頃被上告人等に対し土地の返還を拒んだにも拘わらず被上告人等はこれを鋤き返えし爾来被上告人等において本件土地を使用している事実を認めながら、被上告人等の自力救済を認容して、上告人の請求を排斥したのは違法である、と主張する。なる程、所論原判示は本件土地に対する上告人の占有を被上告人等において違法に侵奪したとするものに外ならないけれども、上告人の本件土地に対する移転登記、土地明渡の請求は何れも本件土地所有権に基くものであり、損害賠償の請求は右甜瓜苗の所有権にのみ基くものであつて、本件土地の占有権に基く請求でないこと記録上明らかであるから、原判決が所論のように判示しながら、上告人の請求を排斥したからといつて原判決に所論のような違法があるということはできない。論旨は理由がない。

なお論旨は、原判決は本件土地交換契約及びその解除契約に基く各所有権移転の効果を当時施行の農地調整法による県知事の各許可の有無を判断しないで認定した違法があるというけれども、仮りに所論のように右両者につき知事の許可がなかつたとすれば右交換契約及び合意解除は当初より効力を生じない訳であるから、本件土地は終始被上告人田村の所有に属していたものということになり、右許可の有無を判断しなかつた違法は結局において原判決の結論に影響しない。

従つて論旨は採用のかぎりでない。

以上の理由により原判決は結局正当であるから民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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